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29.アメリカへ
30.うらやましいなぁ〜
31.機上にて
32.帰国後

 

 

United States >> Japan
32. 帰国後

 

日本に帰国してから、あっという間に10日間がたってしまった。
特に何をしていたというわけではないんだけどね(あっ2日だけバックカントリースノーボードに行ったか)。
何もしていないのに、時間だけがどんどん過ぎていく。何もしていないのに、旅行していたときよりも時間の経過が早く感じるのはいったいどういうことだろう。
家にいるので、ご飯を作る。そのつくる作業も急げば、食べるのも急いでしまうのだ。本が腐るほどあるのに読もうと思わないし、あれだけ漫画喫茶に行きたかったのにまだ行っていないし、あれしよう、これしよう、あれ食べよう、これ食べよう、と想像していたものすらほとんど手をつけていない状態だ。
たぶん、何もかもが溢れすぎているから、逆にそれを欲しなくなっているんだと思う。
帰ってきてまず感じたのは僕も含めて、日本人ってつくづく贅沢な暮らしをしているのだなあということ。旅行中、僕が持っていたのは4枚のTシャツとアンダーウェア。一枚の長ズボンと半ズボン。フリースとカッパの上下、寒さ対策に中綿入りのジャケット一つ、靴とサンダル、靴下。それで全てのことが足りていた。この服装で、40℃のサハラ砂漠から、標高6000mの山までカバーできたのだ。この服装で一年半問題なく過ごせた。
帰ってきて箪笥の引き出しを開くとどうだ。フリースが5枚、ジャケットも5枚、靴下とパンツは選び放題だし、Tシャツは40枚、靴だって10足以上ある。いったい僕は日本でどんな生活をしていたんだろう、なんて思っちゃうのだ。なんで4枚のTシャツで事が足りるのに40枚のTシャツが必要だったのだろうか、と。
食にしても、本にしても、テレビにしても、何もかもが溢れ出ているので、そのことに渇きを感じることがないのだ。乾燥したサハラ砂漠では水が欲しくなるだろうけど、涼しい湿気のある川の脇では逆に水を欲しなくなる、そんな感じ。あれだけ感じていた「日本」に対する渇きは、帰国してほとんど感じられなくなってしまった。
日本に飢え続けた一年半が信じられないし、あの旅自体がなかったもののような錯覚さえしてくる。

この旅で55カ国の国を周った。ヨーロッパも素敵だったし、アフリカはタフだったし、南米は自然がホントにすばらしかった。でもなんか思い出すのって、アフリカ人の屈託のない笑顔なんだよなぁ。あの笑顔を思い出すだけでなんだか幸せになれるから不思議だ。
僕は海外にいるときは大の日本びいきだ。日本が大好きでしかたないし、日本という国のもつ文化や歴史、はたまた日本人であることに誇りを持ってたりもする。しかし、実際に帰ってきてこの愛しの故郷を見ると、なにかが間違っているんじゃないか、と思ってしまうのだ。
電車を降りた途端に駆け足で階段を下りていくサラリーマンたちを見ると、おいおいもっとゆっくり行こうよ、って思う。急いで電車の扉に挟まっている人を見ると、5分くらい待てないのかいって聞きたくなる。コンクリートで固められた箱に凝縮して住む人々、その間の狭い路地をちまちまと駆け抜ける自転車。べつにけなすつもりはないけど、いろんな意味で、なんてちっぽけな国なんだって愕然と感じてしまうのが今の僕の正直な気持ちだ。

「ポレポレ(ゆっくりゆっくり)」
先を急ぐ日本人の僕が、事あるごとに東アフリカで聞かされたこの言葉。(ついでに言うと、何かあることに「ポレポレ・アクナマタータ、問題ないよ、ゆっくりいこうよ」とごまかされたけど。)なんでもポレポレで済ましてしまう彼らに時に微笑んで、時に頭にきていたけど、今度は僕がみんなに言ってあげたい。
もっとゆっくり人生を楽しもう。ゆっくりした生活のほうが、逆に人生長く感じるよ、って。仕事だけじゃないさ、ってさ。

旅行中、僕は実に良く笑った。いつかは僕も、あのアフリカの人たちのような屈託のないすてきな笑顔がつくれるようになるかもしれない。
日本でもこの先ずーっと、下を向かずに笑い続けていきたいものである。

 

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