トップページ

 

 
 

1.水下痢のハンガーノック
2.風の谷・フンザ
3.氷河の音と、星降る夜と
4.パスー氷河へ
5.4730m、クンジュラーブ峠

 
 

1.中国政府につかまる
2.パミール高原を駆ける
3.天上の世界から下界へ
4.ロバートからの手紙

 
 

1.カラコラムのサイクリストたち
2.旅行データ
3.海外サイクリングマニュアル

 

 

Pamir Range
1. 中国政府につかまる

 

達成感はあった、しかし安堵感はなかった。なぜならこれまで会ったカラコラムのサイクリスト達に悪い情報をもらっていたからだった。

中国側も、国境にチェックポストはあるものの、入国管理所はおよそ120Km離れた町タシュクルガン。そして、どのサイクリストも国境から最初の町まで自転車で走らせてもらえなかったというのだ。
「中国政府は2週間ほど前に新しい規制をつくった。それは中国国境からタシュクルガンまで、いかなる者も自転車で進むのを禁じるというものだ。賄賂も何もかも無駄、誰もが強制的にバスに乗せられてしまう。バスには公安も同乗するので逃れる術はない。」
そしてその新しい規制は当然僕にも適用された。

パキスタンのにこやかな国境警備隊とうって変わって、中国人の公安がブスッと「自転車は禁止だ」と言った。「バスに乗れ」と言う彼の後ろには同じく銃を片手に持って、こんな辺境地で暇をぶっこいてる公安が10人ほど、嫌みな笑いを浮かべながらこちらを見つめていた。
そして彼らは笑いながら僕の荷物を隅から隅まで調べ上げた。暇で暇で、酒を飲むしかする事がなく、弱い旅人をいじめることだけが生き甲斐なのだろう。社会主義国なんてさっさと崩壊してしまえ。

登るだけ登って、ダウンヒルも出来ないまま、僕は愛車と共に金属の箱に乗せられた。
ガラス越しに変わりゆく外の景色に目をやった。そこはもうパキスタンではなかった。ここはカラコラムではなく、広くて雄大なパミール高原であった。何もかもがカラコラムとは違って見えた。ここは狭い峡谷でもなければ、草木の生えない乾燥した大地でもなかった。まるでモンゴルのように広くて青い高原だった。
ここは今まで通ったどこよりもすばらしかった。
あまりの美しさに涙が出そうになった。そしてこの景色をガラス越しに見させている社会主義国家を恨んだ。

バスが着いたタシュクルガンは面白みが一つもない町。標高は3200m、実に1500mもバスで下ろされてしまったのだ。

そして、翌朝も僕の進む道は、北へ、4200mの峠へと登っているのであった。

 

▲top


All text and images © 2007 tabibum . All rights reserved